大判例

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東京高等裁判所 平成10年(ネ)3200号 判決 1999年3月30日

東京都世田谷区三軒茶屋一丁目一六番一九号

控訴人

株式会社大和ヘルス社

代表者代表取締役

二宮泰夫

訴訟代理人弁護士

沼田安弘

宮之原陽一

川西秀樹

右三名補佐人弁理士

神保欣正

訴訟代理人弁護士

安田有三

小南明也

岐阜県岐阜市高野町三丁目七番地 ヤナガセモーターパークビルB-五号

被控訴人

中山大治郎

岐阜県岐阜市金町八丁目二〇番地

被控訴人

株式会社スタイルクリエーション

代表者代表取締役

中山かほ里

右両名訴訟代理人弁護士

赤尾直人

"

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴人が求める裁判

「原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。右敗訴部分に係る被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用中、控訴人と被控訴人らの間に生じた部分は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決

第二  当事者の主張

次のとおり付加するほか、原判決摘示(五頁一一行ないし四〇頁二行。但し、一審被告持田商工株式会社に関する部分を除く。)のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

1  本件考案の実用新案登録は無効にされるべきものである。したがって、本件実用新案権に基づく被控訴人らの本訴請求は、権利を濫用するものであって、許されない。

すなわち、本件考案の構成要件は、

イ 靴被装者の足裏「かかと」部が接触する部位に設けられ、「かかと」部分の最外側となる部位に位置して、最も高く隆起した最高隆起部H、最高隆起部Hから最内側部分に向け、なだらかに傾斜する斜面として形成される部位B、

最高隆起部Hから足裏中央部に向け、なだらかに傾斜する斜面として形成される部位C

を備えること(以下「要件イ」という。)

ロ 「かかと」部分における最後部の位置に、最高隆起部Hからなだらかに傾斜する斜面を介して連なり、足裏が最初に着地する高低差を有しない部位A

を設けること(以下「要件ロ」という。)

ハ 靴を履いて歩行した際に、靴被装者の脚内側に向けて体重を確実に掛けさせること(以下「要件ハ」という。)

の三点である。

そして、原審において提出された昭和五六年実用新案出願公告第五二九〇六号公報(以下「公知例1」という。)及び昭和五九年実用新案出願公開第三八九一四号公報(以下「公知例2」という。)には、要件イ及び要件ハが開示されている。

また、公知例1及び公知例2には要件ロが開示されていないが、当審において提出する昭和五九年特許出願公開第六七九〇一号公報(以下「公知例3」という。)には、要件イ、要件ロ及び要件ハが開示されている(要件ロについていえば、公知例3の第4図には、踵部の最後部の内側部分が高低差を有しない(すなわち、平坦である)ことが図示されている。)。

したがって、本件考案の実用新案登録は、実用新案法三条一項あるいは二項の規定に違反してされたものである。

この点について、被控訴人らは、本件考案が靴の中敷きに関する技術的思想であるのに対して、公知例3は靴底に関する技術的思想であって、両者は技術分野を異にする旨主張する。しかしながら、本件考案は、「O脚歩行矯正具」を対象とするものであって、靴の中敷きに限定されるものではない。そして、公知例3記載の発明は、靴底自体を「O脚歩行矯正具」としているものと解することができるから、被控訴人らの上記主張は失当である。

2  仮に本件考案が無効にされるべきものでないとしても、本件考案は、要件イは公知例1及び公知例2に開示されている旨の拒絶理由通知に対して、登録出願人が、要件ロこそが本件考案の特徴である旨主張したことを受けて、実用新案登録がされたものである。したがって、要件ロは、本件考案のO脚歩行矯正具において、高低差を有しない部位は踵部の最後部の部位Aのみであることを意味すると解さなければならない。しかるに、イ号物件に、踵部の最後部以外にも高低差を有しない部位が存在することは明らかであるから、イ号物件は要件ロを充足しないものである。

3  イ号物件は、公知例3に開示されている構成と同一であるから、イ号物件の販売行為は、公知の技術を使用するものであって、本件実用新案権の侵害に当たらない。

二  被控訴人らの主張

1  控訴人は、公知例1及び公知例2には、要件イ及び要件ハが開示されている旨主張する。しかしながら、要件ロに照らせば、要件イの最高隆起部Hは、踵部の最後部の位置に設けられる部位Aより前の位置に設けられるものでなければならない。しかるに、公知例1及び公知例2に開示されている最高隆起部は、踵部の最後部より前の位置に設けられていない。そして、要件ハは、要件イ及びロが具備されてこそ満たされるのであるから、公知例1及び公知例2に要件イ及びハが開示されている旨の控訴人の主張は誤りである。

また、控訴人は、公知例3には、要件イ、要件ロ及び要件ハが開示されている旨主張する。しかしながら、本件考案が靴の中敷きに関する技術的思想であるのに対して、公知例3は靴底に関する技術的思想であって、両者は技術分野を異にする。のみならず、公知例3には、踵部の最外側が最高隆起部であること、その最後隆起部が踵部の最後部より前の位置に設けられること、本件考案の要件である部位B及び部位Cを有すること、踵部の最後部が高低差を有しないことが開示されているといえないから、公知例3には要件イ、要件ロ及び要件ハが開示されている旨の控訴人の主張も失当である。

2  控訴人は、本件考案の登録出願の経過に照らせば、要件ロは、本件考案のO脚歩行矯正具において高低差を有しない部位は踵部の最後部の部位Aのみであることを意味する旨主張する。しかしながら、本件明細書には、本件考案のO脚歩行矯正具において高低差を有しない部位が踵部の最後部の部位Aのみであることは全く記載されておらず、現に、踵部の最後部の部位A以外にも高低差を有しない部位が存在することは願書添付の図面からも明らかであるから、控訴人の上記主張も失当である。

3  控訴人は、イ号物件は公知例3に開示されている構成と同一であると主張する。しかしながら、イ号物件は、本件考案の要件イ、ロ及びハをすべて充足しているところ、公知例3は右各要件を開示していない。

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの控訴人に対する請求は、原判決の主文三、四、六項掲記の限度で認容すべきものと判断する。その理由は、原判決説示(四〇頁六行ないし六九頁四行。但し、一審被告持田商工株式会社に関する部分を除く。)のとおりであるから、これを引用する。

二  控訴人は、本件考案の実用新案登録は実用新案法三条一項あるいは二項の規定に違反してされたものであることの論拠として、公知例1及び公知例2には要件イ及び要件ハが開示されており、また、公知例3には要件イ、要件ロ及び要件ハが開示されている旨主張する。

そこで、要件ロについて検討するに、乙第一六号証によれば、公知例3記載の発明は運動靴に関するものであって、同公知例には、「第3~4図のように、スポーツシューズ(11)の靴底(12)の外側にその前部及び踵部に対して外方に厚く内方に薄い前部当てゴム(13)と後部当てゴム(14)を貼着又は靴底(12)と一体に設ける。当てゴムの外側厚み(d)は通常3~15mm程度である。」(二頁左上欄一〇ないし一四行)と記載され、その第4図には、踵部の最も後の点を中心として外側方向(左の靴においては左方向、右の靴においては、右方向)に後部当てゴムが図示されていることが認められる(別紙図面参照)。一方、本件考案の要件ロにいう「足裏が最初に着地する(中略)部位A」は、人の通常の歩行動作を考えれば、踵部の最も後の点を中心として左右それぞれの方向にある程度の広がりを持つ部分を指すと解するのが相当である(原判決の「かかと後端部分の横幅方向全体の着地」という説示(五二頁三行、五五頁四行)は、このことを指すものと考えられる。)。そうすると、前記第4図に図示されている運動靴において「足裏が最初に着地する部位A」は、後部当てゴムが存在する部分と、後部当てゴムが存在しない部分の双方を含むことになる。そして、乙第一六号証によれば、公知例3には当てゴムの内側の厚みを明らかにする記載は存在しないことが認められるが、それが薄いとはいえある程度の厚みを有することは当然であるから、前記第4図に図示されている運動靴における「足裏が最初に着地する部位A」は、高低差を有しているといわざるをえない。

この点について、控訴人は、公知例3の第4図には踵部の最後部の内側部分が高低差を有しないことが図示され、本件考案の要件ロが開示されている旨主張する。しかしながら、本件考案の要件である部位Aは、前記のように、踵部の最も後の点を中心として左右それぞれの方向にある程度の広がりを持つ部分と解すべきであって、踵部の最も後の点を中心として左右いずれかの方向にのみ広がりを持つ部分と解するのは不合理であるから、公知例3に本件考案の要件ロが開示されているとはいえず、したがって、控訴人の右主張は採用することができない。

そうすると、控訴人が援用する公知例には要件ロが開示されていないことになるから、本件考案の実用新案登録は実用新案法三条一項あるいは二項の規定に違反してされたものであるとする控訴人の主張は、控訴人のその余の主張の当否を検討するまでもなく、失当である。

三  また、控訴人は、要件ロは本件考案のO脚歩行矯正具において高低差を有しない部位は踵部の最後部の部位Aのみであることを意味するところ、イ号物件はこの要件ロを充足しない旨主張する。

しかしながら、本件考案の実用新案登録請求の範囲に、本件考案のO脚歩行矯正具において高低差を有しない部位は踵部の最後部の部位Aのみであることが記載されていないことは明らかであるし、甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面にも、控訴人の前記主張に副う記載は全く存在しないことが認められるから、控訴人の右主張も失当である。

四  控訴人は、イ号物件は公知例3に開示されている構成と同一であるから、イ号物件の販売行為は、公知の技術を使用するものであって、本件実用新案権の侵害に当たらないと主張する。

しかしながら、前記二の説示のとおり、公知例3に本件考案の要件ロが開示されているとはいえないところ、前記一において引用する原判決の説示のとおり、イ号物件は本件考案の要件ロを充足しているのであるから、イ号物件は公知例3に開示されている構成と同一であるとはいえず、したがって、控訴人の右主張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。

五  以上のとおり、控訴人の本件控訴は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条、六一条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成一一年二月一六日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面

<省略>

11・・・スポーツシューズ

12・・・靴底

13・・・前部当ゴム

14・・・後部当ゴム

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